モー・ノーマン裏話

大東将啓 著  

セキュリティーブランケット

 1993年1月に物理学者のジャック・カーケンダルを通じて、初めてモー・ノーマンと知り合う事が出来た。 少年期から自閉症ということで、初対面の人間と会うことが得意でなく、 オーランドにあるインターナショナルゴルフクラブのクラブハウスでのモーの態度は、まるで小学生の子供の様であった。 落ち着きが無く、手にはドライバーを握りしめ一時も離さない、子供でいうセキュリティーブランケットの様であった。 話をするときも目線が定まらず、こちらの質問にも答えが定かでは無い。

記念写真が嫌いなモーとの貴重な2ショット
記念写真が嫌いなモーとの貴重な2ショット

 しかし、一端ドライビングレンジに出てボールを打ち始めると、人が変わってしまった。ちょうど役者が舞台に上がったようなもの。 まさしく水を得た魚であった。 その姿は堂々とし、まさに世界一のボールストライカーと呼ばれるにふさわしいもの。 後で聞いた話だが、モーは、初対面の人間にはほとんど会話をしないという。 どうりであまり会話が成立しなかったわけだ。

 

フォトグラフィックメモリー

 モー・ノーマンの記憶力は凄い。 ちょうど映画「レインマン」に出てくる、主役のダスティー・ホフマンのを地で行くようなもの。 40年前に出場したトーナメントのゴルフコースはもちろんのこと、一打一打全ての事を鮮明に覚えている。 今までの人生の中で打ったゴルフショットを、全て映像として頭の中に取り込んでいるようだ。(フォトグラフィックメモリーと言われる)

 驚いたのは、数年前に会話した内容まで事細かに覚えていたことだった。 モーに最初に会った時、私は日本のゴルフ環境や練習場に現状等を話したのだが、数年後になって、モーの口から私の所属している東香里ゴルフセンターが155打席あり、1球当たり平均10円の値段など、細かい数字まで会話の中に出て来たのだ。

 

一生でデート一回

 モー・ノーマンは、現在67才になるまで独身を通している。 今までに1度だけ女性とデートをしたそうだ。 幼年期の交通事故が原因で、自閉症になってしまった。 しかしその分、ゴルフにのめり込み世界一のボールストライカーとなったのだろう。 ちょうど映画「フォレストガンプ」の主人公のトム・ハンクスが卓球に夢中になったように。

 そんなモーが好きなのは、子供達。 ジュニアのクリニックを進んで行うなど、子供とは肌が合うようだ。 モー・ノーマン自身が非常に純粋で、繊細な子供のような心を持っているからであろう。

 そんなモー・ノーマンの実話が映画化されるとの話である。 大変楽しみな物だ。

 

白い帯の上をボールが一直線

 モー・ノーマンのビデオ撮影の為に、カナダのキチナーのゴルフ場に行ったときの事。

 日本から幅50センチの白い帯を250メートル持参した。 ドライビングレンジの地面にその白い帯を一直線に張り、いざモーにボールを打って貰った。 驚く事なかれ、何度もボールがその白い帯の上に落ちるではないか。

 ケン・ベンチュリーが「パイプラインモー」と言った様に、ボールは白い帯の上を一直線で飛んで行く。 ドライバで左右に外れても、たかだか5メートルほどなのだ。 カメラをボールの落下地点にセッティングをし、望遠でモー・ノーマンのスイングを撮る。 ボールが飛んで来るに従ってカメラのレンズを退いてくると、ボールは見事なほどに決まったところに落下するのである。 どうりで、1971年からOBが無いはずだ。

計ったように白い帯の上をボールが飛ぶ 計ったように白い帯の上をボールが飛ぶ
計ったように白い帯の上をボールが飛ぶ

 

43年間同じルートで行き帰り

 モー・ノーマンは、夏はカナダ、冬はフロリダで過ごす。 それも決まった時期に決まったコースを、自分の車で43年間移動してきた。 カナダのキチナーでは、電話のないモーテルで生活をし、フロリダのデトナビ−チでも1ルーム。 衣服や家財道具を車に詰め込んで、一人で片道2,000キロの道のりを3日間かけて大移動をする。 飛行機を極端に嫌い、過去25年間1度も飛行機に乗っていない。 私自身、何度となく来日を強く勧めたのではあるが、なんといっても飛行機嫌い。 返事は「No way!」(とんでもない)の一点張り。 ベン・ホーガン同様、偉大なゴルファーの来日は難しい。

 

気まぐれでわがままなモー

 1997年1月25日(土)モー・ノーマンのデモンストレーションがフロリダ州オーランドのディズニーゴルフコースで開催された。 ドライビングレンジには、その日の為に特設スタンドが設置されていた。 4時の開場に約1時間前から雨上がりの中を観客達が、自分の席を求めて座り始めていた。 雨で濡れた椅子を持ち寄ったタオル等で拭いて着席し、これから始まる世界一のボールストライカーの登場を待ちわびて居たのだった。 大勢の観客が待ち受ける中、モー・ノーマンは大きな拍手に迎えられて現れた。 スタンドのちょうど真ん中にセットされたボールの所で立ち止まったかと思うや、回りを見渡した後、ドライビングレンジのいちばん端まで歩き出したのだった。 観客はもちろんのことスタッフ一同、唖然としてしまった。 モーは、自分の気まぐれでスタンドの無い、練習場の端からボールを打ち出したのだ。

モースイング&ギャラリー

1日にコーラを1リットル

 モー・ノーマンの大好物は、コカコーラ。 酒もたばこもやらない。 前述のように女性にも興味はなく、ギャンブルや賭事には、もちろん無関心。 コカコーラさえあればご機嫌なのだ。 その量は、半端な物ではない。 1日1リットル以上を毎日欠かさない。 いつも手には、コカコーラのジャンボカップを持っている。 そのせいかモーのお腹はビール腹ならず、コーラ腹。 とっても大きく、臨月の様。 前歯もコーラの糖分で欠けてきたのか知らないが、先に尖った犬の歯の様である。 それでも、ボールを打ち出せば、67才とは思えないしなやかな動きを見せてくれる。 ドライバーを持ち出せば、打ち出されるボールも300ヤードに届く勢いであった。

 

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