第6回:ミスは許し、そして忘れなければならない

回はゴルフにおいて忘れること、特にミスショットを忘れ、よい結果を記憶にとどめることの重要性について話した。

 私が、トム・カイトのメンタルアドバイスを始めた頃は、彼は反対の考えをしていた。よいショットには反応を示さず、悪いショットを盛んに気にしていた。私は彼にこうアドバイスした。

 「トム。それは反対だよ。よいショットのときは喜び、悪いショットを打っても悔しがらず、忘れてしまいなさい。エモーショナル(情緒的)になれば、記憶に残りやすいのだから」

 エモーション(情緒)は、ちょうどスタンプのようなもので、それが記憶に残ってしまう。だから、よいものだけメモリーしなければならない。

 フレッド・カプルスがマスターズに優勝する前夜(1992年)、私とともに夕食をとっていた席で、私はカプルスに、何を考えているかと聞いてみた。彼の答えはこうだった。

 「打つ前は、腕と肩をできるだけリラックスさせ、握っているクラブで、今までで一番よいショットを打ったときのことを思い出すようにする。博士、それでいいかい?」

 カプルス自身も、よいメモリーだけを残すようにしているのだ。カップに入らなかったパットやミスパットを忘れるのだ。すべての人はミスパットをする。ミスショットも多くする。グッドパット、グッドショットもする。悪いショットを捨て去り、よいショットを集めなければならない。

 例えば、ジャック・ニコラスにミスしたショートパットのことを聞いたとしても、ミスしたことは完全に忘れてしまっている。ミスしたことさえ認めようとしない。人は彼がうそをついているというかもしれないが、彼自身がしていることは、素晴らしい態度を身につけようとしているだけなのである。自分自身でミスパットやミスショットしたことを会話に持ち出すことは絶対にないだろう。実はこれは大変なチャレンジなのである。

 例えば、あなたが失恋したとしよう。あるいは恋人が突然死んでしまったとか。それを忘れることができなければ、立ち直ることができないだろう。いつまでも頭の中に残っていればつらさを克服できないのだ。

 ゴルフでは、ぱっとをミスすればそれを許して、そして忘れなければならない。許すこと、忘れることができなければゴルフはできない。やがてあなたを失敗が支配する。

 記憶に残したいものだけを覚えておく。そして、自分の望む姿に心の状態をもっていく。それが重要なのだ。このことはゴルフだけでなく、人生についてもいえるのではないだろうか。