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昭和25年7月生まれ。追手門学院大学卒業。在学中はゴルフ部在籍。卒業後は旅行代理店に勤務する。昭和59年に大阪市北区にてゴルフ練習場(ゴルフシティ)を開業。練習場経営の傍ら、ゴルフクラブの修理、組み立て、調整に没頭し習熟を深める。
平成14年5月、兵庫県西宮市(阪急夙川駅)にクラブ工房を備えたショップを開業。
趣味はスキー、ボードセイリング、ダイビイグから、最近は大型バイクのツーリングにも夢中。ゴルフハンディは6(茨木カンツリー倶楽部)

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第37回 連載 2010/10/11

パター フィッティング

筆者自身がパッティングを苦手にしているため、パターについて解説することに若干抵抗はありますが、パッティングストロークの技術論ではなく、あくまでも用具論に的を絞って説明したいと思います。パッティングスタイルにセオリー無しとよく言われますが、実際ストロークが悪かろうが、構えやブリップの握り方が変則であろうと、要はカップインさえすればいいわけです。事実日本や欧米のツアーでも選手によってスタイルはさまざまです。又、一般アマチュアが真似できる唯一のカテゴリーでもあります。

コースのパーの設定はパーオンして2パットが基本になっているのは皆さんご存じですね。

つまりパー72の場合、ちょうど半分の36ストロークがパッティングだと想定されているわけです。つまりトータルスコアの半分がパッティングなのです。いかにパッティングが重要なのかが理解できると思います。

欧米では以前よりその重要性が認識されており、フィッティングショップではパターの調整も当然のごとく行われてきており、そのための調整器具も沢山ラインアップされ販売されています。しかし日本ではクラブフィッティングといえばウッドとアイアンクラブがメインで、とくにドライバーの飛距離アップに重きが置かれていました。どちらかというとパターにはあまり熱心ではではなかたのですが、最近、上級者の間ではパターフィッティングの重要性が認識されてきたのか、フィッティング作業が増える傾向にあります。

パターの選択で最も困難なのがどのタイプのヘッドを選ぶかということです。ヘッド形状や素材は他のクラブと比較すると、最もバラエティーがあり、多種多様で我々でも頭を悩ませるところです。お客様にどのパターを購入すればいいですかと質問されて最も答え難いのがパターの選択なのです。形状は大きく分類すると、ピンタイプとマレットタイプ(現在主流の異型大型ヘッドも含みます)に分類できると思います。昔よく見かけたL字タイプとかキャッシングタイプのヘッドは最近のグリーン(ベントの高速グリーン)にはマッチしにくいので近年ではあまり見かけなくなりました。

この2つのタイプの違いとはなんでしょう? 一番大きな相違点は外観になりますが、大事なのはヘッドの慣性モーメントの違いなのです。慣性モーメントはウッドやアイアンクラブの大事なスペックになりますが、以外にもパターヘッドにも大きな影響を与えています。米国ゴルフワークス社のラルフ・モルトビー氏のパターフィッティングビデオに非常に興味深い実験があります。パターをライ角に合わせて固定し、グリップエンドを支点に振り子運動でボールをヒットする器具を用いて両タイプのヘッドでパッティングをしてみます。まず最初にパターの芯でストロークしてみますが、当然両タイプ共きれいにカップインします。次にパターの芯を1インチトゥ側に外してボールをヒットします。約5メートル程の距離ですが、ピンタイプのヘッドはボール半分程右側にそれカップにわずかにショートしました。ところがマレットタイプの大型ヘッドの場合難なくカップインしました。

パッティングストロークのように遅いヘッドスピードであっても慣性モーメントの効果は確実に存在するということになります。なれば誰が使っても大型ヘッドの方が良いということになりますね。ところが米国のツアーでは最近ピンタイプに戻す選手が増えているそうです。事実、日本でもマレットタイプ一辺倒でもなく、ピンタイプも根強い人気があります。

これは技術論や用具論だけではなくメンタル面の要素が大きく拘わっているようです。

マレットタイプの特徴とは、例外はありますが、大半がセンターバランスになっていることがあげられます。これは指の上でバランスをとったときに、パターのフェースが上を向くようになる現象です。シャフトの延長線上にパターヘッドのスイートスポットがくるように設定するとヘッド形状に関係なくセンターバランスになります。例外的にセンターシャフトタイプも存在しますが、通常シャフトはヘッドのヒール部分に装着されます。ヘッドに対するシャフトの挿入角度は90°と72°の2タイプになりますが、この場合オフセット(グースの度合い)量をとり、センターバランスにするためにはダブルベンドシャフトを使用しなければなりません。このベント(曲がり具合)はヘッドタイプによって全部異なってきますので、シャフト交換をする場合は注意が必要で、違うパターのシャフトに付け替えるようなことは避けた方が無難です。このタイプのパターヘッドには通常シャフトを装着するためのネックが存在しません。直接ヘッドに穴をあけ装着されているケースが大半ですので、ライ角やロフト角の調整はシャフトを曲げなければ作業できません。これは非常に困難な作業で専用の器具が必要になりますが、調整することで、オフセットやセンターバランスにどうしても影響がでてしまいます。シャフト装着部分の穴を加工してシャフト挿入角度を変更するような調整は避けたほうがよいでしょう。このタイプのヘッドのメリットはシャフト延長線上でヘッドの前後の重量や慣性モーメントの値が等しいため、特にロングパターやベリーパターのようにグリップエンドの支点を動かさず振り子運動でストロークした際、ヘッド向きが非常に安定することが考えられます。反面、芯をはずしてヒットすると、シャフト回りの慣性モーメントが小さくなるため、フェース面が左右に動きやすくなり方向性に問題が生じます。そのためにヘッド単体の慣性モーメント値を大きくして方向性の犠牲を最小限になるように設計されています。ダブルベンドシャフトはシャフトの向きを変化させることによって、フェースアングルを調整することが可能です。特に構えたときにヘッドが左を向いてしまうのを嫌うゴルファーが多いのですが、これは少しシャフトの装着向きを変えることで簡単に調整することができます。但しあまり極端に変化させるとロフト角にも影響がでてしまいますので注意が必要です。

反対にピンタイプはどうでしょう。スコッティ・キャメロンやタッド・モアーなどのピンタイプで軟鉄削り出しのヘッドメーカーはこのセンターバランスを否定し、製造していません。このタイプは通常シャフトを取り付けるためのネック部分が存在します。炭素鋼のヘッドであれば、ネックを曲げることによってライ角やロフト角の調整が自由にできます。もともとセンターバランスではないために、大きく調整してもヘッド機能をあまり損なうことがありません。ネックが曲がってしまうので、見た目は不細工になるかもしれませんが。

ではどちらのタイプの方がいいのでしょうか? 残念ながらこれは筆者にもわかりません。一般論で言えば腕や手首をロックした状態で完全なショルダーストロークでボールをヒットするプレイヤーにはマレットタイプで、どちらかというとリストを柔らかく使う方にはピンタイプがマッチするかもしれません。確証はありませんが。

ヘッドの選択はゴルファーの皆さんが実際にストロークしたフィーリングで自信をもって選ぶことが肝要です。

パターの調整といっても、通常のクラブとほぼ同じです。長さ、重量、グリップの太さと重さ、ヘッドバランス、ロフト角とライ角のセッティングなどです。

長さの問題は背丈と構え方によって決定されます。特に構え方が大事で、ショルダーストロークのゴルファーは肘を伸ばし気味にした方がストロークし易いので短めの方がマッチするでしょう。反対にリストを使われるゴルファーはパターを吊り下げるように構えた方が手首を柔らかく使えますので、若干肘を曲げた構え方が適しますので少し長めの方がいいでしょう。ロングパターやベリーパターはこの限りではありません。

グリップの調整は最も頻繁に行われる作業です。最近はカラーグリップに人気があるようです。これもストロークの方法によって最適な太さのグリップを選ぶことをお勧めしますが、基本的には個人の好みに大きく左右されます。太さも種類が多く、選択に頭を悩まされるところでしょう。以前は著名なプロがトーナメント等で使うと、すぐに同じものを装着してほしいといった依頼が殺到しました。しかし最近ではプロが使っているからとか、流行っているからとかでの依頼は少なくなり、自分にとって最も使いやすいグリップを選択されるゴルファーが増えてきているようです。良い傾向だと思います。ただ太さを変えると総重量が変化することを理解して下さい。これはヘッドバランスに大きく影響します。グリップの重量が増えると相対的にヘッドが軽く感じられます。つまり総重量は増えるのにヘッドバランスは軽くなるわけです。このような場合はヘッドに鉛やタングステンテープを貼って調整されればOKですが、あまり偏った貼り方はしない方が無難で、スイートスポット裏か前後均等に貼れば良いでしょう。

ロングやベリーパターの場合シャフトが長く、又長いグリップが装着されています。結果グリップ側に結構重量が配分されるため、通常のヘッドではバランスが軽くなりすぎる傾向があるため、重い重量のヘッドが装着されています。ですので、通常の長さのパターのヘッドを使用してロングやベリーパターに改造することはライ角の問題だけではなく重量的にもあまりお勧めできません。

ロングやベリーパターは別にして、一般的なパターの場合バランス理論というのはあまり関係ないと考えています。あくまでも慣れの問題で、パッティングストロークのヘッドスピードではバランスや重量が若干変化したからといって、ストロークに大きく影響することはあまりないのではないでしょうか。もちろん極端な場合は影響するかもしれませんが。

ライ角はパターといえども結構重要なファクターになります。やはり構えたときにソールが均一に接地するパターを選ぶべきだと思います。パターといえどもロフトがあるため、トゥやヒール部が浮いた状態での構えでは真っ直ぐに打ちづらくなるでしょう。青木選手はトゥが大きく上がった状態で構えていますが、これはキャッシングタイプのヘッドを使用しているから問題が発生しないのです。このタイプのヘッドは通常ロフト角がないためライ角の影響を受けません。 通常のクラブはアドレスとインパクトでは手の位置が大きく変化しますので、ライ角調整の場合は実際にショットした上でのダイナミックライフィッティングがかかせませんが、パターの場合構えとインパクトがほぼ同じですので、アドレスの状態でのライ角フィッティングで問題ありません。

次にロフトの説明をします。パターでもっとも理解されていないのがロフトなのです。

グリーン上のボールを転がすだけなので、ロフトなどは必要ないだろうとか、もともとパターにはロフト角はついていないと勘違いされているゴルファーが多いのは事実です。

ロフトフィッティングの基本は高速グリーンでは少なめに、遅いグリーンでは多めに設定することが基本です。昔のようにグリーンが遅くて転がりの悪い時代のパターにはキャッシングタイプを除いて、平均ロフト角は4°〜12°といわれています。しかし最近のパターは1°〜5°のロフト角が一般的です。 これはグリーンの状態の変化が大きく影響してきているのは間違いありません。

昔のパターの名プレイヤーは皆リストアクションを多用していました。パッティングの名手で有名だったビリー・キャスパーなどは左手を左の太ももに固定してリストのみでストロークし実に精妙なタッチでプレーしていました。パーマーやニクラウス、ゲーリープレイヤーなども全て同じリストアクションです。今でもゴルフネットワークなどの番組で当時の名プレイヤーの映像を見ることができますが、パシッと強くヒットされたボールが跳ねながらカップに向かって転がっていく様子がよくわかります。これに対し現在ではグリーンの管理がよくなり、転がり方も早くてスムーズなので、リストアクションを殺したストロークがメインになっています。

では何故ロフトが必要なのでしょうか? これにはパットした際のボールの転がり方を理解することが重要です。打ち出されたボールは距離に関係なく最初の約1/5(20%)はバックスピンかもしくはスキッドした状態で前進し、残りの4/5(80%)はオーバースピンでカップに向かっていきます。打ち出した瞬間からオーバースピンで転がっていくことは絶対にありません。最近のトーナメントでは高速度カメラでスイングを映して解説されることがよくありますが、グリーン上でのパッティングの際の転がり方がよくわかりますので注意して見て下さい。 つまりオーバースピンになるまでの最初の1/5の転がりをコントロールするのがロフトの役割になります。ボールは重力によりそれ自体の重量でグリーン上にありますが、最初の1/5の間、極力重力の影響を相殺し芝の影響を受けないようにするためです。つまり遅いグリーンほどスキッドしている間の芝の抵抗が多いため、ボールがジャンプしない範囲でより上方向に打ち出して重力の抵抗を弱めるのです。そうすることによってスムーズにオーバースピンにもっていくことが可能になります。0°ロフトやマイナスロフト(ネガティブロフトともいいます)のパターだとボールが強くグリーン上に押し付けられてボールが跳ねたり、芝の抵抗をまともに受けたりしてスムーズな転がりを得ることができなくなってしまいます。ロフトの必要性がご理解いただけたでしょうか。

全く同じパターでロフトのみ2°以上違うパターで実際にグリーン上でパットしてみれば一般のゴルファーでも転がり方の違いがわかると思います。同様に全く同じパターで同じロフトでもゴルファーによって転がり方が違う場合があります。これはインパクトロフト(アクチュアルロフトともいいます)の違いによります。構えよりもインパクトで手が前にでた状態(ハンドファースト)でインパクトすればロフトを殺して打つことになりますので、ロフトの選択はグリーンの状態とパッティングストロークの方法によって決めなければなりません。

次に打点のことについて説明します。他のクラブに限らずパッティングでもボールの芯をパターヘッドのスイートスポットでヒットすることが重要で、最も良いフィーリングの転がりを得ることができます。フェースのどの部分でヒットしたかがわかるパター用のインパクトラベルも販売されていますので、ぜひ試されることをお勧めします。以外にもパターヘッドの芯でヒットできていないケースが多いのに驚かれると思います。上級者程芯でヒットしている確立が多くなるのはいうまでもありません。テーブルの上にボールとパターヘッドを置いて、目線上でフェースのどの部分にボールが触れているか一度確認してみて下さい。一般的にパターフェースの厚みはボールの高さより薄いため、フェースのかなり上の部分に当たっていることが確認できると思います。つまりグリーン上でパターを地面に付けた状態でヒットするということはパターの芯で打てていないことになります。ですのでテーブルの上でパターのソールをどのくらい浮かせたらフェースの真ん中にボールが触れるかを確認して下さい。その状態でパットすればOKなのですが、薄いフェースのパターを使用している方は最初はボールの上部分をヒットしているような錯覚を持ちますが、それでいいのです。ぜひ練習で身につけることをお勧めします。プロのトーナメントを見ていてもほとんどの選手はパッティングの際、ソールがある程度浮いた状態でボールをヒットしているのが理解できるとおもいます。パターヘッドにも重心位置で低重心や高重心はあるでしょうが、フェース面がボールよりも薄いため、機能面で与える影響は殆どないと考えてよいでしょう。

次に技術論として、ボールにオーバースピンを与えるため、ボールの上部をヒットすれば良いというゴルファーもいますが本当でしょうか。確かにビリヤードではキューでボールの打ちどころ変化させることでボール回転を自由自在に操っていますね。この手法を参考にということなんでしょうが、ゴルフの場合はどうでしょうか。ゴルフボールに最初からオーバースピンを与えるにはボールのかなり上の部分をヒットすることが必要になるでしょう。そうすることによって確かに最初からオーバースピンの転がりを得ることができるかもしれません。(試したことがないのでよくわかりませんが)。ただこのようなインパクトはボールをグリーン面に押し込むようになり、かえってマイナスロフトのパターで説明したようにボールが跳ねてしまうでしょうし、なによりボールとパターのスイートスポットをかなり外してヒットせざるをえないため距離感のコントロールが不可能になり、大事なフィーリングも全く感じることができないため、このような方法は避けるべきだと思います。

次にスイングパス(軌道)についての説明です。

通常のフルスイングするクラブの場合、ボールの飛び出し方向はスイング軌道に大きく影響を受けます。インサイドアウトのスイング軌道でショットするとボールはその軌道方向に影響を受けますので、右に飛び出します。その時インパクトでフェースが目標に対してスクエアにヒットしたとするとボールにはフックスピンがかかり左へ戻ってきます(右打ちの場合ですが)。つまりボールの飛び出す方向と曲がり具合はスイング軌道とフェースの向きによって決定されるわけです。これはインパクトでフェースとボールの接触時間が長いクラブほどその影響が大きく現れます。ではパッティングの場合はどうでしょうか。パッティングの際のボールとフェースの接触時間はドライバーの場合より少なく、約4/10000

秒といわれています。この値というのは23メートル程度までの短い距離の場合、スイング軌道の影響は微々たるものでほとんど問題にならないと思われます。つまり、ショートパットの場合はスイング軌道よりもフェースの向きの方が大事で、インサイドアウトであろうがカット軌道であろうがフェースが正しくカップに向いた状態でヒットすればカップインするはずです。しかしロングパットの場合は少しスイング軌道の影響を受けることがわかっています。フェースコントロールが正確にできていても、スイング軌道が悪いと方向性に狂いが生じてしまいます。ただロングパットの場合、方向性よりも距離感の方が重要なので、その問題にゴルファーが体感できていないだけなのです。パッティングスタイルにセオリー無しと冒頭で書きましたが、やはり目標に対して真っ直ぐにストロークすることは大事なセオリーであることに間違いはないでしょう。

次はスイングテンポの問題です。パッティングにもテンポが関係するの? と思われるかもしれません。しかしショットのテンポが早いゴルファーはやはりパットのテンポも早くなるのが自然だと思います。あるゴルフ雑誌にトム・ワトソンとベン・クレンショーの対比の記事が書かれていました。ご存知のようにワトソン選手はアップテンポで非常にシャープなスイングの持ち主です。パットも早いテンポでヒットしていきます。ベンクレンショー選手は全くその対極で大きくゆったりとしたテンポでショットし、パットも又同じです。これは若干技術論になってしまい、筆者の分野ではありませんが、テンポの重要性には賛同します。

それ以外のフィティングでは、遅いグリーンでは重たいパターの方が良いとか、重いヘッドのパターの方が転がりが良いとか、シャフトは撓りを感じられる方がフィーリングが良いとか、アッパーにヒットしたほうが良い転がり方になるとか、フェース面に樹脂をインサートされているヘッドのほうがフィーリングや転がり方が良くなるとか、いろいろなことが言われています。残念ながらそれらをいちいち解説していくと長くなりますし、又筆者には良く理解できていませんので割愛させていただきます。

最後になりますが、往年のプロゴルファーでパットの名手といえば杉原プロや青木プロがあげられるでしょう。私が20歳前半の頃(約40年近く前の話で恐縮です)、父にゴルフに連れて行ってもらいました。その時練習グリーンで杉原プロが熱心に練習していました。近くで練習風景を見させていただきましたが、身体とフェースは左を向いているのにインパクトで実に見事にスクエアにヒットしていくのです。自身の勝手な想像ですが、多分杉原プロはもともとパッティングがあまり得意でなかったのかもしれません。飛距離のなさをボールコントロールの巧みさとショートゲームとパッティングでカバーする必要があったため、練習でパッティング技術を確立し、名手といわれるようになったのかもしれません。やはり努力の賜物だと思います。青木プロのパッティングは天性のものでしょう。職人肌を感じさせます。両プロともパターの名手として有名ですが、独特のスタイルです。しかし加齢とともに往年のパットの冴えは影を潜めてきた感があります。それに比べ石川遼選手やタイガーなどは実にオーソドックスなパッティングスタイルですね。やはり一般のゴルファーはセオリー通りのパッティングスタイルを習得された方が無難かもしれませんね。

パッティングでも通常のショットと同様にインストラクターの指導を受けてみて下さい。間違いなく上達すると思います。

最後にパタークラブとは関係ないですが、最近のゴルフ場のグリーンは非常によく整備され気持ちよくラウンドできますね。しかしプレー終了後のゴルファーの話を聞いていると、グリーンの速さの話題ばかりです。つまり早いグリーンが良いグリーンだと評価しているようです。本当に良く整備されたグリーンとは速さではなく転がり方にあります。ボールが跳ねたりせず、たえず一定のスムーズな転がり方をするグリーンが良いグリーンではないでしょうか。遅ければそれに対応してしっかりとヒットすれば良いのです。良く整備されたグリーンでプレーできれば速さがどうのこうのではなく、管理されているキーパーの皆さんに感謝の気持ちをもってプレーしたいものです。

いろいろと説明してきましたが参考になりましたでしょうか? パットの下手な筆者の解説なんぞ信頼できぬと思われる方もおられるでしょうね。批判は甘んじて受けさせて頂きます。

 

第36回 連載 2008/7/7

クラブフィッティング36

シャフトのトルクが多いとヘッドスピードは上がりますが、なぜでしょうか?テークバックするとヘッドには開こうとする力が加わります、その際捩れが少ないと振ろうとしているゴルファーの腕に負荷がかかりますが、適度に捩れが発生するとその負荷を感じることなくスイングすることが可能になります。つまりよりスムーズにスイングが出来るのです。結果的にヘッドスピードのUPになります。しかし、あまりトルクが多すぎると捩れたままインパクトをむかえてしまうため右にボールが飛び出してしまいます。又、アゲインストの時に低い球を打ちたくても打てなくなってしまう弊害も生じます。プロゴルファーでも以前はトルク2度台のシャフトがメインでしたが最近は3度台のシャフトが主力になってきています。

 

次にボールの問題があります。簡単にいえば飛ばしたかったら飛ぶボールを選択することです。最近はスピン系のボールとディスタンス系のボールの差が非常に大きくなってきています。

もうひとつ大事なことは適正スピン量です。バックスピン量と打ち出し角度は相関関係にありますが、もっとも飛ぶ値はバックスピン量が21002200回転で打ち出し角度が12 13°のときがもっとも飛ぶ弾道といわれています。

スピン量のコントロールはシャフトでも若干は可能ですが、最も簡単な方法はロフトです。ボールそのものもスピン量が減ってきていますし、ヘッドも低重心化が進んできた現在、今までよりも多めのロフトを選択した方が良い結果を生むケースが増えてきています。ただし、スピン量が減少することは飛距離には有利になりますが、ボールコントロール性能は反対に悪くなってしまいます。ドライバーよりも3番ウッドの方がコントロールし易いのは長さではなくロフトの影響のほうが大きいのです。つまりドライバーよりフェアーウェイウッドのほうがスピン量が多いためコントロール性能が上がるわけです。

 

第35回 連載 2008/6/30

クラブフィッティング35

ウッドクラブについて考えてみます。今までドライバーの飛距離は2つの要素で伸びてきました。1つは反発係数を高めることです。しかしこれは2008年よりルールで規制がかかってしまい、反発係数競争は幕を閉じました。

もうひとつの飛びの条件はスピン量を減らすことです。バックスピンの量を減らすには低重心化が重要な要素です。しかしこの低重心化競争も限界にまできてしまい、すでに終わってしまっています。では今後はどのようにして飛距離UPが可能になるのでしょうか。最も重要なのはボール初速を上げることです。その方法としてはヘッドスピードを上げることです。そのためにはまず速く振ることですが、これはそんなに簡単ではありません。それがなかなかできないので反発係数UPやスピン量コントロールが考えられたわけです。

次にヘッド重量を増やすことがあります。この重量効果によってボール初速が上がります。その代り重すぎて振り切れないとミート率が下がり反対に飛距離ロスになる恐れがあります。つまり振り切れる範囲で重いほうが飛距離UPになります。

もうひとつは長さを長くすることです。これは最も簡単にヘッドスピードが上げることが可能です。よくドライビングコンテストが行われていますが、上位入賞するゴルファーの殆どは48インチのドライバーを使用していることでも証明されています。一般的に長くなればミート率が落ちて、又かえって振りにくくなって飛距離が減少するといわれていますが、現在のヘッドは慣性モーメントが非常に大きくなっており、極端に長くしないかぎりミート率が悪くなることはないようです。長尺クラブになるとシャフトの選択がいままで以上に重要になってきます。重すぎても軽すぎてもだめで、最適重量のシャフトを見つけることが非常に大事になります。

次に重要な要素がシャフトのトルクです。トルクとはシャフトの捩れのことですが、これがある程度大きいほうがヘッドスピードのUPにつながります。ではどの程度のトルクがいいのかというと、約4.6°〜5.6°ぐらいのトルクのシャフトを使用するとヘッドスピードが上がります。

 

第34回 連載 2008/4/8

クラブフィッティング34

この数年、アイアンクラブで急激に変わったことがあります。前回で説明したようにセットが5番からになってきたことに関係すると思いますが、各メーカーが5番アイアンのロフトを減少させ始めたのです。数年前の5番アイアンのロフトは平均28°でしたが、最近の平均は25°になっています。最近の新製品では何と23°というのもあります。これは昔の3番アイアンとほぼ同じロフトなのです。もちろんヘッドが進化して打ち易くなり、長さも長く、ロフトも減少していますので従来の5番より飛んであたりまえですが、このままいくと5番も打てなくなる恐れがあるかもしれません。 この結果当然ながらショートアイアンのロフトも減少しています。9番アイアンを例にとると30年前は48°だったものが10年前は44°で数年前は42°で最近の平均40°になっています。将来的には38°程度になるでしょう。

SWのロフトは56°〜58°でそれほど変化していません。以前のPWは51〜52°で今では呼び名がAWに変化してしまいました。今のPWは45〜46°になっています。このままセットのロフトが減少していくと、ウエッジ4本の時代がくるでしょう。アニカ・ソレンスタムはすでにウエッジ4本使用しています。昔はセットの本数は8本でした。バブル期には10〜11本で最近では6本が平均になっています。このままいくとアイアンセット5本になるかもしれません。

ロングアイアンに代わるクラブとして、フェアーウエィウッド(FW)やユーティリティーウッド(UW)の使用頻度が増えてきています。FWとUWの違いとしては、UWの方が重心が低いため高い弾道が出やすく同じロフトと長さであれば、FWよりもスピンが少なくなる分飛距離がかせげます。代表的なクラブがキャスコのパワートルネードです。一方女子プロに人気があったのがリョービのビガロスメディアでした。これはUWにしては珍しく重心が高めに設定されていたのでスピン量が多くグリーンでよく止まる球が打てたからです。パワーヒッターで球が上がり過ぎる方は中空アイアンが適しているでしょう。中空のロングアイアンは一見すると打ち易そうに見えますが、構造上重心が高くなる傾向にありますので、パワーヒッターには打ち易くなりますが、一般のゴルファーには適さないかもしれません。

 

第33回 連載 2008/4/1

クラブフィッティング33

皆さんもご存じのように最近のアイアンセットは5番からになりつつあります。

クラブ設計に携わる者としては、いかに打ち易いロングアイアンを開発するかに苦心惨憺してきました。ところがせっかく打ち易いロングアイアンを開発しても、いつのまにかロングアイアンがいらない時代になってしまいました。これは突然ゴルファーの考え方が変わってロングアイアンがいらなくなったのではありません。実はロングアイアンは昔と比較すると確実に難しくなっているのです。ヘッド単体で見ると確実に打ち易く進化しているのに、なぜでしょうか?

非常に興味深いテスト結果があります。あるプロゴルファーに2番アイアンを打ってもらうテストを行いました。何をしたかというと、2種類のボールを打ち比べてもらったのです。1つはB社の10年程前に最もプロが好んで使用したボールで、もうひとつは最近人気のあるボールです。

結果はまずバックスピンの量が旧いボールの場合、3287cpmで新しいボールは2953cpmという結果がでました。打ち出し角度で見ると旧いボールが12.2°に対し新しいボールでは10.4°という結果になりました。つまり2番アイアンがドライビングアイアンの難易度になってしまったのです。これはボールの進化によってロングアイアンが非常に難しくなってしまったということなのです。決してゴルファーが下手になっているわけでもなく、クラブが難しくなっているわけでもないのですが、結果としてボールの進化がロングアイアンを打てなくしてしまったのです。反面ドライバー等では確実にロースピンで飛距離が出るようになりました。

 

第32回 連載 2006/8/7

クラブフィッティング32

 

今回もクラブには関係ないですが、ちょっと陳清波プロの話をしてみたいと思います。

前回お話したようなことから陳プロと親しくなりまして、最後にレギュラーツアーを引退するときにゆっくりとお話することができました。ご存知のように陳清波さんのショットは全部フックでした。右の林に飛び出してフェアウエイに戻ってくるようなショットが持ち球で全盛期には勝ちまくっていました。あるときプレスインタビューで、「陳さんは右がOBでも右からフックを打ちますね。スライスが打てないんですか?」というすごい質問をした記者がいたそうです。その時陳さんは「僕はプロだからスライスだって打てますよ」といったそうです。その翌週の試合で、いままでは全部フックで攻めていたスタイルを、記者の言葉を意識したのかスライスを要求されるホールではスライスで攻めるようにしたそうですが、それから勝てなくなってしまったそうです。「やっぱり自分のスタイルを変えないほうがよかったんだ」という話をしていました。スライスを打ちだしたからといってすぐにゴルフがだめになったわけではなく、まずパットが悪くなりだし、次にショットも悪くなりだしたそうです。後に「あの記者の質問がなければ僕はもっと勝っていたかもしれないよ」と言っていました。このような例はたくさんあるようです。

例えば、以前ビッグワンといわれた村上隆プロは自身のレッスン書を出しました。その中でパッティングについて、最も大事なことはアドレスで目標に真っ直ぐ合わせてそのまま真っ直ぐ打ちなさい。真っ直ぐ向けることができればほぼ成功したようなものです。というようなことを書かれたそうです。その後パッティンググリーンで練習しているときに親しい記者が「村上さんフェース左向いてますよ」と言ったそうですが、村上プロのスタイルはフェースを左に向けてインパクトでスクエアに戻すスタイルで杉原プロと同じようなパッティングスタイルだったのです。ところがその指摘をされたとたんパットがだめになってしまったそうです。個人の癖はある意味では大事にしたほうがいいのかなとも思います。

 

第31回 連載 2006/7/17

クラブフィッティング31

今回はクラブのことからちょっとはずれて上達する練習方法について説明します。

私は約25年程前まではアマチュアでトーナメントに出ていましたが、ゴルフを始めて間もない頃、陳清波プロと話をする機会がありまして、その際陳さんが「竹林君、一生懸命ゴルフに取り組むのなら、上手くなる練習方法を教えてあげるよ」と言われました。その時何を教わったかというと、まず練習はウエッジから始めなさい、それが上手く打てたら9番アイアンを打ちなさい。そのようにして徐々にクラブを代えていきなさい。仮に7番アイアンが上手く打てて、6番アイアンを練習して上手く打てなかったら6番の練習は止めて7番に戻りなさい。7番が上手く打てなくなったら8番に戻りなさい。この繰り返しをしっかりしなさい。このような練習方法を教わりました。これは何を意味しているのかというと打てないクラブは練習してはいけないということです。打てないということはスイングが悪いから打てないのであって、打てないのを一生懸命練習するのはだめなことを学習しているのです。だめなことを学習してしまうとそれを忘れるのには大変なエネルギーが必要とされるからなのです。ではドライバーの練習は当分できませんねと尋ねてみると、「最後に5〜6発打ちなさい、それで十分です」と言われました。その教えを守って練習してきたら見事に上達しました。現役時代東南アジアにも試合で行きましたが、台湾の選手は練習場でアイアンクラブの練習の際、ティーアップして練習している光景を見ました。これは陳清波の先生の陳清水さんの教えらしいのですが、悪いコンディションで練習すると悪いスイングが身に付きます。なるべく良いコンディションで練習するほうがいいスイングが身に付きますという考えなのです。それまでの自分は打てもしないのにボールを土の上に置いて打つ練習をしていましたので、本当に良いことを教わったような気がします。難しい状態から打つ練習は基本ができてからで十分なのです。

この練習方法が最善だとは思いませんが、ぜひ皆さんも試されることをお勧めします。

第30回 連載 2006/7/10

クラブフィッティング30

高性能なウエッジはほとんどがノーメッキ仕上げになっています。メッキをするためには表面を綺麗に研磨しないとメッキがのりにくくなってしまいます。メッキというのは非常に薄い膜ですので、表面の状態がもろに現われてしまうからです。私どものクラブでは極力スピン性能が犠牲にならないように最大限注意していますが、やはりメッキ仕様のヘッドは若干スピン性能が犠牲になってしまいます。

今までは良いコンディションの場合の説明でしたが、ラフからのショットの場合はもっとはっきり差が現われます。溝の角がシャープな程、ボールとの間に挟まった芝草を切る効果が高まり角が直接ボールに接触する割合が高くなり結果良くスピンがかかります。溝が丸まったヘッドでは芝草を切れないためスピン性能が下がりドロップがかかりやすくなってしまいます。又溝の深さも重要で、深い程余分な芝草を溝の中に貯めやすくなりますのでやはりスピン性能が向上します。雨の日も同様で、溝の幅が広くて深い程、水はけが良くなりスピン性能の向上になります。興味深いのはバンカーショットの場合です。高性能なクラブでバンカーショットを繰り返したヘッドをよく観察してみると、スコアラインの左右の端に砂が吹き出したような放射状の後が残っています。これは溝のシャープさとは直接関係しませんが、溝が広くて深い程、ショットの際に砂が溝を伝って排出される量が大きくなるわけです。つまり、結果としてより薄くショットできることになりバンカーショットのスピン量が増えてより止まりやすくなります。

 

第29回 連載 2006/6/26

クラブフィッティング29

同じヘッドで溝の違いでどのようにショットが変化するかをテストしたデータがあります。

フルショットをした場合溝のシャープなヘッドの場合バックスピン量は9213回転になりましたが、普通の溝のヘッドの場合は5125回転で約6割程度のスピン量になります。実験の結果、スピン量が9000近くになるとグリーンのコンディションが良いと球が戻るようになりますが、5000回転程度だと少し転がってしまいます。興味深いことは溝がシャープでスピン量が多いクラブ程キャリーが減少してしまうことです。実験の結果5ヤードほど距離が減少しました。もっと興味深いのは打ち出し角度で、溝がシャープなクラブは29.5°で普通の溝のクラブでは34.1°でした。 卓球のラケットを考えて下さい。ゴムの面で打つとカットすると球は低くなりますが、裏の板(コルク)の面でカットすると高く上がってしまいます。これと同じ現象がウエッジにも起きています。スピン性能が高いヘッド程打ち出し角度が低くなってしまいます。つまり、ボールを止めたかったら低く打ち出さないと止まりません。高く打ち出してしまうとかえって止まらない球になってしまいます。カットして低く出るのが最も良く止まる球なのです。じゃあなぜプロはロブショットをするかといえば、ラフに入っていたりして芝がかむような時はスピンが非常にかかりにくくなります。このようなときに低く打ち出すと全く止まらないショットになりますので、このようなときはなるだけ高く打ち出して落下角度でボールを止めるようにします。ヘッド性能を簡単に判断する方法は、親指をフェース面に当てて強く上に押すと、シャープな溝のヘッドの場合は指が動きませんが、溝の角が丸まっているヘッドは指が上につるっと動きます。 丸山選手のクラブもスコアラインを彫刻で入れていて非常にスピン性能の高いヘッドを使用しています。最も神経質なときは2試合でクラブを代えていました。今でも3〜5試合で代えているようです。ちょっと神経質過ぎるかもしれません。

私どものMT28の場合、初期のスピン性能を保つため素材から考えました。使用している素材は通常の炭素鋼ではなくニッケル・クロム・モリブデン鋼を使用しています。万能ではありませんが、この素材を使うことによって溝の磨耗が少し防げます。

第28回 連載 2006/6/19

クラブフィッティング28

 

私どもで開発したMT-28のウエッジが非常に成功しゴルファーに人気があるようですが、このクラブの開発のきっかけをお話します。あるときゴルフ雑誌を読んでいると丸山選手の低く出てぴたっと止まるアプローチの特集がありました。その技術のことが書かれていましたが、実はこのような低く打ち出してぴたっと止まるショットは技術ではできません。クラブの性能で可能になるわけです。そこでこのようなクラブを製作してみようと思ったのがきっかけです。

スピン性能についてですが、例えば5番アイアンで考えますと、溝(スコアライン)のあるヘッドと溝のないヘッドではどちらがよくスピンがかかるかというと、実は溝なしの方なのです。どうしてでしょうか? インパクトの瞬間はボールが潰れてフェースに密着しますが、エネルギーの伝達というのは接触面積が広ければ広いほど伝達効率が高まります。

つまり同じ潰れ方をした場合溝ありヘッドの場合、溝の部分の接触面積が少なくなるためにスピン量が少し減ってしまうわけです。これはクラブを開発しているメーカーの方は良くご存知なのです。実際以前ダンロップが溝なしヘッドのアイアンクラブを発売したこともありました。残念ながらスピン性能が劣っているわけでもないのに、見た目の違和感からかあまり市場では支持が得られなかったようです。そういうことでいままでゴルフ業界では溝の役割というのはラフからのショットの際に芝を切るためだとか、雨の日のショットの際の水はけのためにあるとか言われてきました。

ではウエッジの場合はどうでしょうか? 実はウエッジのショットの場合はボールがあまり潰れません。インパクトの時、溝の上側でボールを引っ掛けたショットになります。ですので溝の角はシャープな程、スピン性能が向上して、良く止まるショットになります。

通常ヘッドの製作過程では最後に研磨して仕上げますが、そうすると溝の角が丸まってしまってスピン性能が悪くなってしまいます。私どものヘッドは最終工程後のスコアラインを彫刻機で入れた後は一切研磨をかけないようにしていますので溝の角がシャープに保たれます。

 

第27回 連載 2006/6/12

クラブフィッティング 27

昨年タイガーが苦しんできたのは、アイアンがマッスルバックタイプで重心距離が短く、反対にウッドは400cc超の重心距離の長い大型ヘッドを使用してきたことが原因のようです。昨年のプレーぶりを見ても右にプッシュアウトするケースが多く、ウッドの重心距離が自分のスイングに対して長すぎる典型的なミスです。ですから右、右、左、ストレートの繰り返しで苦しんでいました。今年良くなった理由はハンク・ヘイニーのレッスンでドライバーの重心距離が従来の約42mmから38mm以下になったことで方向性が向上したようです。もちろんこの理由だけではないと思いますが。

昔のパーシモンヘッドと軟鉄鍛造アイアンの時代は非常にマッチングが良かったので、どのモデルを使用しても問題はなかったのです。その後アイアンがキャビティータイプになり大きくなってきてバランスが悪くなってきましたが、ウッドでSヤードが発売されてバランスが良くなりました。その後ご存知のようにチタンヘッドがどんどん大きくなり又バランスが悪くなってきました。慣性モーメントを増加させるのにヘッドの大型化は不可欠ですが、その弊害が重心距離にきてしまったのです。現在では設計技術が進んだおかげで、ヘッドが大きくなっても重心距離を小さくすることが可能になってきました。何も細工しなければヘッドの大型化に伴い重心距離も長くなりますが、無理に重心距離を短く設計してしまうとスィートスポットがヒール寄りに設定されフックボールしかでないクラブになってしまいます。そこでシャフトの位置をよりフェースセンターに近づけた位置にすることで重心距離のコントロールが可能になってきました。

プロゴルファーのスランプは技術的な面も大きいと思いますが、オフシーズンのトレーニングの失敗とクラブの選択ミスが非常に大きいように思われます。

今年のトーナメントではマイク・ウィアーがスイング改造中とのことで結果が出ていませんが、彼はクラブを代えすぎでしょう。グレッグ・ノーマンなどはあれほど活躍していたのにスポルディングからコブラに代えたとたん見事にスランプに陥りました。近年やっと

クラブのマッチングが悪いのが理解できたようですが、ときすでに遅しです。3年前ガルシアはタイトリストからテーラーメイドにクラブを代えて失敗しました。これはタイトリストは重心位置が短いのですが、テーラーメイドは長く設定されているからです。最近それに気付いたのか少し小さいヘッドを使いだして復調してきたようです。

このように重心距離のマッチングは以外と大事な要素だということが理解していただければ幸いです。

ただ、一般のアマチュアゴルファーにとってはこれほどシビアな結果にはならないと思いますのであまり心配しすぎることはないでしょう。

第26回 連載 2006/6/5

クラブフィッティング 26

 

ヘッドスピードの速い遅いの基準はどうなんでしょう?

一般的にはドライバーを例にとると、46m/sec以上は速い分類になり重心距離は35mm以下が適しているでしょう。反対に40m/sec以下は遅いほうになり、重心距離は40mm以上が必要になってくるでしょう。ただ、本当のヘッドスピードを知るのは以外と難しいものなのです。最近では設備の整ったショップでは例外なくスイングアナライザーが設置されていると思います。これは正しい方向で、クラブは見栄をはるものでも飾りでもなく、ボールを打つ道具ですから、店員のセールストークだけで判断するのではなく、実際にショットした結果やフィーリング重視で購入したいものです。皆さんもショップなどでヘッドスピードを測定された経験があるかと思いますが、この結果もその測定方法によって結構誤差が生じます。問題なのはクラブを販売するために粉飾されているケースが多いことです。仮にA店でD社のクラブでヘッドスピードを測定してもらうと42mだったのに、B店でM社のクラブを振ると45mであればだれだってM社のクラブに興味をもってしまいます。残念ながらこのようなことが実際行われているようなのです。ですから試打をして購入することを希望する場合は同じ測定器で打ち比べて判断するようにしたいものです。

ウッドとアイアンの重心距離のマッチングで考えると、両方が同じというのがベストでしょうが、これはなかなか困難だと思いますが、少なくともアイアンの方がウッドクラブよりも重心距離が長い方が良い結果が得られます。ウッドの重心距離の方がアイアンよりも大きい場合はゴルフが難しくなりますので避けるべきです。

キャロウエィ社の場合はアイアンの重心距離が非常に大きい割りに、ウッドの場合は小さく設定されていて、マッチング的にはベストではないように感じられます。では何故このようなことがおこるのでしょうか? 実は米国では数値のデータに基づいた設計を今までしてこなかったからなのです。又、重心距離の概念というものが全く理解されていなかったようです。実際あらゆるフィッティングの文献類を調べても重心距離の説明は全く存在しません。ですから単品でのクラブの機能は優れていても全体のマッチング面では問題が生じてしまうのです。日本ではプロギアなどは最初からこのコンセプトに基づいて設計されています。(これは竹林氏が設計に携わっていたので、あたりまえといえばあたりまえなのですが) 最近では米国のメーカーも理解してきたようで、以前と比較すると良くなってきているようです。